Aave マーケットコンサルタント Lilith Li氏 – 世界トップのDeFiレンディングの取り組みを訊く(第1部)
DeFiのレンディングプロトコルであるAaveは、今やスマートコントラクト上にロックされた資産の総額は世界トップ3に入ります。今回は、Aaveのメンバーでアジア地域を担当するLilith Li氏に、Aaveの概要やv2になって便利になったことを中心に伺いました。
本記事は、全部で3部構成になっています。第1部は、Aaveがどのようなプロジェクトかを訊いていきます。
Aave マーケットコンサルタント Lilith Li氏 インタビュー 第1部
Lilith Li氏のプロフィール
加藤:今回はインタビューの快諾ありがとうございます。最初にLilithさんご自身についてお聞かせください。今までどのような経歴から、Aaveに携わるに至ったのでしょうか?
Lilith:Lilith Liと申します。私は2020年4月からAaveに入り、マーケットコンサルタントをしています。
私は中国の大学を卒業して、2011年に日本に来ました。当時ビジネス・ファイナンスに興味があり、武蔵野大学大学院で言語文化研究科に入りました。大学院では、日本と海外の様々なビジネスモデルを研究しました。
私は3ヶ国語を話すことができたので、当時から国境を超える仕事をしたいと思っていました。そして、大学院のときにカナダのビクトリア大学とイギリスのケント大学に短期留学をしました。その時に、日本で英語を話す中国人がかっこいい思ったので、仕事でそれをやろうと思いました(笑)
大学院を卒業してからは、投資のビジネスをしている会社に入りました。そこでは、海外投資家から日本のもの、例えば土地や一棟ビル、温泉を買いたいという要望に応える仕事をしていました。そこで2年働き、その後不動産会社に入りました。不動産の仕事をしているときに、IT企業にいるほうが世界最先端のものがわかるなと感じたので、転職することにしました。そして、応募したところがたまたまブロックチェーン企業でした。
その企業は、本社がシンガポールに、拠点が日本にあり、世界各地でブロックチェーンカンファレンスやイベントを開く事業を行っていました。ブロックチェーン業界は女性が少ないので、女性の私は自然と目立つことになり、みんなが私のことを覚えてくれました。シンガポールに出張した時、アメリカのブロックチェーン企業から会った初日に転職オファーを貰ったことがありました。そこで思ったのが「ブロックチェーン業界のスピード感って速い!」ということでした。なんだか自由な感じがあり、この業界は開放感があっていいなと思いました(笑)
Aaveに関わるようになったきっかけは、アジア市場に担当者がいないのでやってほしいというオファーがあったことです。当時は、まだアジアでAaveが認知されていませんでした。Aaveは2020年1月にP2P型からプール型にアップデートしたのですが、当初は中国でトークン保有者や流動性プールのユーザーを増やして、翻訳や現地の人とビジネス開発をする予定でした。私が日本に住んでいるので、日本もマーケティングしようということになりました。
加藤:ということは、Lilithさんは日本と中国が中心のアジア担当ということなのでしょうか?
Lilith:はい、そうです。今は中国語をメインに情報発信しています。中国はAAVEトークン保有者が多いのでそちらが最優先エリアになっています。2021年から、日本語も一緒に発信しており、アジア全体的にAaveの情報発信をしていきます。
Aaveのプロジェクト紹介
加藤:Aaveは、ブロックチェーン業界の人にとっては非常に有名なプロジェクトです。一方で、一般人の暗号資産投資家からみるとまだまだ知られていないところもあります。Aaveがどのようなプロジェクトなのか、簡単に紹介していただけますか。
Lilith:Aaveは分散型金融(DeFi)のサービスです。ブロックチェーンを使って銀行みたいなことができ、誰でも暗号資産を貸し借りすることができます。Aaveそのものは、イギリス発祥のプロジェクトで、代表のStani Kulechovがフィンランド出身です。ちなみに、Aaveはフィンランド語で”お化け”という意味です。お化けは、今のAaveのアイコンになっています。
Aaveは、マネーマーケットのための、分散型でお金を預からない(ノンカストディアル)オープンソースなレンディングプロトコルです。USDTのようなステーブルコインやステーブルじゃない暗号資産、20種類程度に対応しています。
Lilith:貸し手(Lender)は暗号資産をマネーマーケットに入れると、借り手(Borrower)から支払われた利息を受取ることができます。借り手は、担保の暗号資産をマネーマーケットに入れることで、暗号資産を借りることができます。もちろん、お金を借りるので、借り手は利子を払うことになります。これが、Aaveの一般的な利用方法になります。
Lilith:そして、借り手が支払う利子には変動金利と固定金利があります。借り手は好きな金利を選ぶことができ、途中で金利の種類を切り替えることができます。これは、できるだけ多くの人にお金を借りやすいようにする仕組みです。変動金利では、流動性プールの在庫によって金利が変動します。在庫の量が減ると金利が上がるようになっています。
また、フラッシュローンという機能があります。これはプロの開発者向けであって一般向けの機能ではありません。フラッシュローンでは、1つのブロック内でトランザクションを実行し、資金を流動性プールに戻すという条件で、担保なしで暗号資産を借りることができます。例えば、Aaveでいくら借りて、それをUniswapで交換して、さらに別の場所で売って、Aaveにまた戻すということができます。つまり、Aaveを使ってアービトラージができるようになります。
マネーマーケットでは、流動性プールに暗号資産を入れることができます。2020年4月からは、Uniswapと連携して、Uniswapのマネーマーケットができました。そのため、現在は全部で3つのプールがあります。Aave v1/v2とUniswapです。ユーザーは、好きなプールで暗号資産を貸し借りすることができます。
加藤:AaveとUniswapのマネーマーケットの違いは何でしょうか?
Lilith:まず、利用することができる暗号資産の種類が違います。Uniswapは通貨ペアを扱っている点が、一番分かりやすいAave v1/v2との違いになります。また、UniswapのユーザーはUniswapのプールでそのままAaveを使うことができるので便利になります。ただし、いまのところUniswapのマネーマーケットの流動性は高くはありません。そして、Uniswapはイーサリアム上で動く分散型取引所(DEX)で、Aaveは分散型レンディングプロトコルなので、利用する目的も違います。
加藤:暗号資産の種類が異なるとのことですが、利用できる暗号資産はどうやって決められるのでしょうか?
Lilith:Aaveでは2種類の暗号資産を扱うことができます。価格変動が少ないステーブルコインと価格変動する暗号資産です。何を扱うかは、最初はチームで色々な審査をして決定していましたが、現在はガバナンス機能でコミュニティが決めるようになっています。流動性や価格変動のほかに、コードも見ます。変なものを加えるわけにはいかないので、とても慎重にやります。ですので、取り扱い開始までには時間がかかります。
価格変動が大きい暗号資産については、できるだけユーザーが多いプロジェクトのものを入れるようにしています。Aaveの流動性プールが大きくなるからです。また、現在ユーザーが多いHuobiが出しているステーブルコインのHUSDも入れようとしています。入れるかどうかは、コミュニティのガバナンスによって決まります。投票には、必ずAAVEトークンが必要になります。最近は、機関投資家がAAVEトークンをたくさん買って、ガバナンスに積極的に参加するようになっています。